
〇セッション概要
今回のセッションでは、産婦人科医である高橋幸子先生・サッコ先生が、思春期の子どもたちが抱える課題や、包括的性教育の必要性についてお話ししてくださいました。先生が担当される外来には、生理に関する悩みだけでなく、若年妊娠や性被害といった深刻な相談が寄せられることが多く、性教育は学校だけで完結するものではなく、家庭や地域、医療機関と連携して進めることが重要であることが伝わってきました。
現在の日本の性教育は、いわゆる「歯止め規定」によって扱える内容に制約があります。この「歯止め規定」がどのような流れでできたのかということとさらにその課題もお話くださり、特に避妊や性行為については高校生以上でなければ学ぶ機会がほとんどないことが理解できました。一方で、国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは、性教育は「人権教育」として位置づけられ、幼少期から段階的に性の多様性や性的同意、自己決定について学ぶことが推奨されています。このギャップを埋めるため、日本の教育現場でも活用できる教材として『まるっと!まなブック』を開発され、その教材の中身についてもお話いただきました。
また、若者が安心して相談できる場としての「ユースクリニック」の紹介がありました。東京都では性に関する悩みを専門家に相談できる「ユースクリニック」が設置され、無料で避妊薬を処方するなどの支援が進んでいます。しかし、こうした取り組みはまだ一部の地域に限られており、より多くの若者が必要な支援を受けられる環境づくりが求められています。
最後に、「18歳までにどんな知識や環境を整えるべきか」を考え、学校・家庭・地域が協力して包括的な性教育を推進していくことの大切さが語られました。性教育を単なる知識の提供にとどめず、子どもたちが自分の人生を主体的に選択できるような「人権」教育としての性教育の必要性を改めて感じる機会になりました。
〇参加者の声(事後アンケート・セッション中の発言より)
◆子ども達が、知りたい!学びたい!と思う気持ちに大人が誠意をもって答えていくことが大切だと改めて感じました。歯止め規定で、もどかしさを感じることも多いですが、性教育は人権教育であること伝えて仲間を増やしながら、子ども達と共に学んでいきたいと思います。
◆知識のないままネット情報にふりまわされているこどもたちの姿を見ていて、わたしたちが先回りしたり、伝え方を工夫したりしなければ、と感じています。
性の問題や命の問題に限らず、一人一人の発達段階に合わせた情報の質と量をコントロールしながら、正しく楽しく伝えて導けたらと思っています。
◆子供たちが無邪気に性の話をしているときに、「スルーしない」「悪ノリの空気には乗っからない」「いったん冷静な空気に場を止めて、真剣に話をする」という具体的な対応の仕方を聴くことができ、良かったですが、これからも学び続けていきたいと思います。
〇セッションを終えて
今回のセッションを通して、性教育に関する課題の大きさを改めて実感しました。参加者の皆さんの声からも、このテーマに対する悩みや戸惑いが多いことが伝わってきましたし、「どこまで教えていいのか」という制約や、学校現場での対応の難しさに直面している方も多いのだと感じました。
同時に、これはもっと多くの人と、特に保健を教える先生たちと一緒に考えていくべきテーマだとも思いました。包括的性教育を進めるにはまだまだ高い壁があるように感じますが、それだけに「人権教育である」という視点を持ち、子どもたちが自分の体や人生について主体的に学べる環境をつくることが欠かせません。今回の学びを出発点に、どうしたら子どもたちにとってよりよい環境を作れるのか、引き続き模索していきたいです。
(酒本 絵梨子)
〇セッション紹介
「包括的性教育」って何?ーまるっと!まなブックとユースクリニックー
「包括的性教育」は、性に関する知識やスキルだけでなく、人権やジェンダーの視点を取り入れ、自分らしい選択をし、幸福に生きる力を育む性教育です。
このセッションでは、世界の性教育の指針とされる「国際セクシュアリティガイダンス」と日本の「学習指導要領」を比較参照し、年代別に学べる教材「まるっとまなブック」や若者が性に関する身体や心の悩みを相談できる「ユースクリニック」のお話も交えながら、包括的性教育について具体的にお話いただきます。
後半には、参加者同士で意見交換を行うディスカッションの時間も設けています。性教育に関心のある方は、ぜひご参加ください!
高橋幸子氏(埼玉医科大学助教)