今後の教育者に求められること-鈴木良介氏-参加者レポート 

2021年1月20日(水)、未来の体育共創サミット2021にて、鈴木良介氏(NowDo株式会社取締役副社長兼COO)が登壇くださり、「今後の教育者に求められること」というセッションが行われました。このセッションの一参加者として、以下、その概要をご報告いたします(古木善行)。

1.講演の概要

社会の本質を理解すること

 大学までプレーヤーとしてサッカーに関わり、ほとんどの時間をサッカーに費やしてきた。しかし、大きな大学の時の怪我によって選手の道を絶たれてしまった。大学卒業後、すぐに指導者の道へと進むことになった。ある保護者との出会いの中で、「ビジネスをしたことがありますか。」と問われたことがあった。その問いを受けて、ほとんどの子どもたちが、将来、プロサッカー選手にはならないにも関わらず、指導者として、これから子どもたちに必要なことを伝えられていないことに気がついた。自身が社会に出た経験がないことや、プロサッカー選手経験者の指導者との違いを見出すため、ベンチャー企業に勤務し経営を学ぶこととなった。そこで、お金を稼ぐこと、人を雇うこと、事業を継続させることの難しさを身をもって感じることができた。この経験を通して、これからの教育者には、子どもたちに社会に触れさせることが必要だと考えるに至った。そして、私たち大人は情報や最先端のテクノロジーに触れながら、社会の本質を理解したりや社会性を学んだりすることが大切だと考える。

本田選手とのビジネス

2010年から本田圭佑選手と一緒に仕事を一緒に仕事をすることになった。元は本田選手も、ただのサッカー選手だったが、サッカースクールの立ち上げを一緒に行ってからは、ビジネスにも力を入れ、二足の草鞋を履いて仕事をするようになった。本田選手は、子どもたちにまっすぐな気持ちをもっていて、素晴らしい人間を育てれば、日本は良くなると信じている。さらに、いい人材を作れば世界が平和になると本気で信じている。これは、これまでの彼の世界での経験から言えることで、彼の一言一言や毎日やっていることを素晴らしいと思っている。

5年間で、サッカースクールを約80カ所、スポーツ施設4カ所、クラブチーム運営5チーム、社会人チーム1チームのサッカー事業の立ち上げを全国各地で行ってきた。初めは、大阪で自身がコーチとして関わるところからスタートした。その後、2014年から2017年にかけて、海外20カ国ほどを回り、現地の子どもたちのサッカースクールや、現地のプロクラブの立ち上げなどを行った。東南アジア、中国、アフリカ、オーストリア、オーストラリアで現地法人を作り、現地の人材を育て、現地のサッカースクールを作っていった。カンボジアで、出会った子どもたちに夢を尋ねると、夢を持っている子どもがほとんどいなかった。その理由は、毎日生きることに必死で、夢をもてていなかった。そんな子供たちに夢を持ってほしいという思いで事業を進めている。この経験が今に繋がっている。

本田圭佑選手と目指した目標

本田選手は、小学校の卒業文集で書いた、セリエAのACミランに入って10番をつけるということを実現させている。しかし彼は、小学校の時に世界ナンバー1になると決めていて、現在その夢は叶えられていないと思っている。二人で事業をスタートさせた時に、本田選手が言ったのは、世界中に300のサッカースクールを作り、世界で一番大きなサッカースポーツの会社を作ろうということだった。本来は、一つ作るのに1年かかるほどのことで、絶対に無理だと考えていたが、本田選手は事あるごとに、300という数字を示しながら話をしてきた。そうすると、いつの間にかその300という数字が当たり前のものとなり、1年目で20を達成した。しかし、その20という数字を見た時に、あと280カ所作らなければならないと思っている自分に気がついた。目標設定の仕方で、これだけマインドが変わるということを強く感じた。あと280カ所作るために何を学んで、どういうスピード感で、何をしなければいけないのかの最短ルートや、時間の使い方を考えられるようになった。最終的には世界に120カ所ほどしか作ることができなかった。全く届かなかったが、300は無理だと思ってスタートしていたなら、おそらく20カ所程度で終わっていたと思う。しかし、目標を達成するためにどのようにするべきか、自分の掲げた目標を達成するプロセスをしっかりと考えていくことには、意味があると考える。目標を、自分ができるであろうという場所に設定するのではなく、能力を引き上げるためには、他の人に無理だと思うところに設定されることで、圧倒的に自分にない能力を引き上げることもできるということがわかった。本田選手の強みは、まず、目標設定が挙げられる。設定したことに対して、信じて突き進めることが素晴らしい。自分の当たり前をより高く設定する。大きな目標がないと、人は弱いので、サボってしまうこともあると思う。また、判断力や決断力も強みとなっている。自分の芯が真っ直ぐで、何に向かっているかが明確になっているからこそ、判断や決断ができるのだと思う。また、本田選手は、間違っていると思った時には、柔軟に、真逆に舵を取ることもする。周りの人からの助言を受けて、自分も違うと思えば、謙虚に変えることができる。今の会社には、二人の中学生アドバイザーがいる。ネットでの学校を立ち上げていて、オンラインで学べる環境を作っている。社会で活躍している人たちから学ぶことができる。ターゲットとしている年代に合わせ、その世代の子どもたちに託し、意見を求めることをしている。

日本の子どもに必要な能力

足りていないというよりは、能力を学ぶ環境を作れていないということであり、これは大人のせいであるといえる。必要というのは、私たちが子どもに伝える必要がある、そこで培わなければいけない子どもの能力だと思う。生きるために、経済社会の仕組みを、子どものうちに知る必要があると考える。

本田選手から子どもたちへのメッセージ

子どもたちが自分たちで生きていく力を身につけるには、私たちが社会で揉まれながら、様々な経験体験をし、子どもたちに伝えていく必要がある。変化に対応する力として、自分で考えて行動する力をつけさせていきたい。そして、今後社会に出ていく自分の姿を思い描けるということを教えていくことが教育者の役目だと考えている。そのために、考えるために必要な情報を与えていくことや、社会の本質を伝えていく必要がある。

参加者の声(アンケートから)

  • 感動しました!!最初イベントを知ったときは、まさかこんな話せるとは思っ てなかったので、興奮しました!まじめな話としては、やはり公教育の機能と教師としてどのような姿を自分が見せていきたいのか。そこについて問い直す時間となりました!ありがとうございました!!
  • 教育に関わる者として、ひたすら内省しました。自分で選択し、決めるトレーニングが子どもの時から必要だという考え方に大変共感しました。
  • 指導への大きなヒントをいただけた気がしました。変化への対応ができ、自分で考えて行動できるようなトレーニングを入れていきたいと思いました。
  • 多くの点で共感しましたが、とくに貧しいところ夢を与えるために教育が大切だというところは自分の考えと一致します。それを実現できているところがとても魅力です。

感想

 学校現場にいて、「社会に出た経験がない」というところは全くもって自分自身に当てはまることだった。私も、大学を卒業してから、一度も外で働くことはなく、学校現場に飛び込んだ。その世界が当たり前となり、外との交流もないままに多くの時間を過ごしてしまった。今この会で出会えた人との繋がりから、まさに今、社会を学ぶことができているように思う。これをまた一つのきっかけとして、自分の世界を広げ、子どもと社会を繋ぐことのできる人間として努めていきたいという思いに至っている。

 子どもに求められる力についても、考えるきっかけをいただいた。多くの考えに共感するとともに、これを普遍のものとして考えることはやめようとも思った。目の前の子どもたちの姿や、社会の情勢などに合わせ、今の子どもを見つめ、「これから」を常に考えて子どもと共に過ごしていきたいと思う。

(文責:古木 善行)

セッション紹介

セッション名
今後の教育者に求められること
セッション内容
僕自身のキャリアのスタートは小学校年代のサッカーの指導者でした。しかし、当時の自分は子どもたちにサッカー、スポーツを通し、社会の本質を何一つ教えることは出来ていなかったと思います。指導者から離れ、本田圭佑とのビジネスを通し、多くのことを学びました。今後の教育者に求められることは子どもたちに「社会の本質」を伝えることだと思います。僕なりに考える「今後の教育者に必要なこと」をお話しします。
講師
鈴木良介氏
NowDo株式会社 取締役副社長兼COO/SOLTILO株式会社 取締役
本田圭佑とともにSOLTILOグループを創業し、国内外に約80校、5000名以上のサッカースクールや海外のプロクラブの運営、スポーツ施設運営等の事業を展開。2017年からNowDo株式会社でオンラインスクール事業をはじめ、各界を代表するトップランナーたちの声を届ける「NowVoice」運営を主に行っている。