「未来」という学びを構想する人たちと一緒に「未来」について考えよう!!-山本尚毅氏 中川 隆義氏-参加者レポート

未来の体育共創サミット2021のセッション「未来」という学びを構想する人たちと一緒に「未来」について考えよう!!」について、以下、参加者によるレポートです。

1.導入

9日間にわたる未来の体育共創サミット2021の最後を飾るのは、本サミットに協賛頂いたスポンサーによるセッション。学校法人河合塾の山本尚毅氏、株式会社みずほ銀行の中川隆義氏より、企業による学校教育への関わり方について「未来」をテーマにディスカッションを繰り広げた。本ディスカッションには、両氏が内容の執筆を手掛けた『もし「未来という教科があったなら』(学事出版、2020/12)の関係者でもある学事出版株式会社の二井豪氏、Shin Edupower Pvt. Ltd.の田中高信氏にも加わって頂き、様々な角度から企業による学校教育へのアプローチについて具体的な事例紹介と討議を進めた。

2. 各登壇者による紹介

2.1. 学校法人河合塾 山本尚毅氏
山本氏は河合塾で未来研究プログラムを担当し、子供たちに対する「急がば回れ、あえて寄り道・遠回りする学び」の提供を主眼に活動を展開している。未来というキーワードに対し少々ネガティブな印象を抱きがちな子供たちではあるが、大人の定義をする未来ではなく、答えのない状況から自ら教科書を作る形で未来を学ぶ機会をプログラムに落とし込んでいる。この度出版された『もし「未来という教科があったなら』は「世間に対する企画書」の意味合いを込めて出版したと山本氏は語る。

2.2. 学事出版株式会社 二井豪氏
『もし「未来という教科があったなら』の出版元である学事出版の二井氏は「新しいチャレンジ。未来のつくりかたを体現できた」と語る。公立・私立校及び国内外を問わず、未来を見据えた学び方について数多くの事例を取り上げているが、「未来」という言葉に対する捉え方が各々の立場でバラバラであったため、一度落ち着いて「未来」そのものを考える機会となるように内容を構成した。限りある学校教育の世界を超えて、企業との取り組みの事例についても本書の中で取り上げられている。

2.3. みずほ銀行株式会社 中川隆義氏
企業からの関わり方として「未来の運動会」の事例を紹介したみずほ銀行の中川氏は、一つの大きな流れとして企業の社会課題解決を掲げる。メガバンクを巡るビジネスの環境は大きく変化しており、新しい社会的存在価値を創出する必要がある中で、「様々なお客様とネットワークをもっていることを価値創出の起点としたい」(中川氏)との想いから様々な学校・企業・自治体を結び付けた活動を展開している。

2.4. Shin Edupower Pvt Ltd.(インド)田中高信氏
企業によるアプローチは国内にとどまらず海外にも展開されている。インドで事業を展開するShin Edupower Pvt Ltd.は「100Million Project – 1億人の子供と母親に良質な教育を届ける」をコンセプトに日本の教育の良い部分をインフラとして提供すべく活動している。現地からは日本特有の「時間を守る、諦めずやり抜く、集団意識が高い」文化を教育の場で教えて欲しいとリクエストを受け、様々な階層の子供たちの個性を引き出しながら授業プログラム。創設者の田中氏は「自分の力・責任・意志で自分の進む道を決めていく子供たちを育てたい」と語る。

3. ディスカッション

紹介の後、未来の体育を構想するプロジェクト代表理事の神谷が司会を務める中、企業視点の学校教育への関わり方について議論を繰り広げた。

冒頭、企業から学校側への関わり方の難しさについて「安全面を考慮するとできることに制約がある」(中川氏)、「企業からすると学校側の意思決定のプロセスがわかりにくいことがある」とポイントをあげられた。特に企業では、担当者本人に意欲がある場合でも、リソースを使う以上活動に対する説明責任が生じるため、学校に対するアプローチにおける大きな足枷となりやすい。この点については、「利益とは何か、学校か見るとわかりにくい部分もあるのでは」(二井氏)、
「対話が不足している印象」(神谷)と学校から見た企業の見え方についても意見が出された。また田中氏からはインドの事例として、利益の2%を社会的な活動に還元するルールに基づいて教育事業に関わる企業を集めた活動について紹介があった。双方の当事者の理解を深めることも必要ながら、より高い次元からの制度的なアプローチも一つの答えになるのかもしれない。

加えて、学校現場の当事者でもある教師の環境についても意見が上がった。二井氏は教師の現状として「生徒も含めて自由に未来を妄想できる機会がない」ことを取り上げる。「探求的な学びに意欲的な先生はやはり楽しそう」(二井氏)であり、「将来とは異なり、未来はもう少し自由に語られてよい」(山本氏)とするのであれば、企業としては教師に対し選択肢の幅を拡げる機会を提供できれば良いのでは、という意見が挙げられた。

関係者間を繋ぐ機会の多い中川氏は、みずほ銀行が手掛ける学童保育プロジェクトを題材として取り上げ、本セッションの様に多くの人々がつながるプラットフォームの重要性を語る。「教え方」のノウハウを含めて日本の教育環境のレベルの高さを肌で実感する田中氏も、コーディネーションの場に企業が必要ならば入れる余地はあるのでは、と提言した。

4. まとめ

少なからず、教育事業に対して携わりたいと考える企業は存在するが、学校側企業側含めてお互いの状況が見えにくいことに問題点があるという認識が共有された。この点を踏まえセッションでは、「未来」「社会」といったキーワードを掘り下げて双方の考えを交換し、新たな共通認識を創り上げていく場の重要性を改めて認識することとなった。山本氏は「未来という教科を緩衝材とすることで、学校にも企業にもチャレンジの意識が生まれる。チャレンジとして位置付けるほうが向き合えるのでは?」と語る。想いとして共通するものがある以上、お互いの目を合わせる機会を増やすことが、教育に対する企業の連携度合いを深めるための次のステージなのかもしれない。

(鈴江智彦)

セッション紹介

セッション名
「未来」という学びを構想する人たちと一緒に「未来」について考えよう!!
セッション内容
未来の体育を構想する人たちだけでなく、いろいろな人と「未来」について考えたい。そんな思いで企画しました。今回は、「未来」ということに問いをもち、教育と未来とを関連付けて考えることを試みた、『もし「未来」という教科があったなら』(学事出版)を出版した方々とともに「未来」を視点に対話をしたいと思います。学校の先生、企業に勤める方など、垣根を越えて、「未来」について愉しく語り合いましょう。
講師
山本尚毅氏
河合塾 未来研究プログラム担当 1983年石川県生まれ。 北海道大学農学部を卒業後、IT企業を経て、株式会社Granmaを創業。発展途上国の課題をデザインやテクノロジーで解決を目指す事業を営む。現場での経験から、教育の重要性を身に染みて、感じ、教育関連企業に転籍。未来をテーマにした探究的な授業や企画開発に従事。2020年11月に書籍『もし「未来」という教科があったなら』をプロデュース。

中川 隆義氏
株式会社みずほ銀行 名古屋中央法人部 部長。1991 年入行。2016 年からは渋谷,2019 からは名古屋,において法人営業部長を勤める。「メガバンクが知見とネットワークを活用して,社会課題の解決に主体的に参画。この CSVアプローチがメガバンクの新しい社会的存在価値に。」をモットーに活動中。行政や企業のみならず教育機関や NPO などと連携して共創活動を推進。