部活動はどこへ行く-有山篤利氏 追手門学院大学教授-参加者レポート 

未来の体育共創サミット2021において、追手門学院大学の有山先生にご登壇いただき、「部活動はどこへ行く」というテーマでセッションが行われました。以下、参加者(松下)によるレポートです。

複雑な部活動問題をわかりやすく整理して示してくださり、根本の部分を考えさせられる問いを投げかけてくださいました。

問題の根本に迫る講話

運動部活動問題の背景には4つの要因がある。
・学校規模の縮小―子どもの数も教員の数も減っている
・教員の働き方改革―ライフスタイルの変化
・前時代的な固定した部活観―成果主義、勝利至上主義
・部活動への様々なニーズ―価値観の多様化

国の運動部活動対策に隠れる矛盾。スポーツを楽しいものとして扱ったり、厳しく辛いものとして扱ったり、その矛盾が問題の根本にある。

部活動対策として、活動時間の制限など緊急避難的な対応も必要であるが、「部活はどんな教育なのか。何を学ぶ場なのか。何のためにあるのか。」という根本的な問いを考え、根本的な対応をしていくことが必要。

スポーツが教育に使われるようになったのは、スポーツは当時の価値観にあう人材を育てるための格好のツールだったから。しかし、今は価値観が変わってきている。

これまでは、「1番良いもの」を求めていた。しかし、良いものが溢れるようになった現在では、2番でも3番でも十分良いものであるため、「モノを使った充実した毎日」を求めるようになっている。成果を重視する時代からプロセスを重視する時代に変化している。

部活動が変わったから問題なのではない。変わらないから問題。

「コロナで試合がなくなった→アスリートの閉塞感や高校生の絶望感に繋がる」スポーツができなくなったわけではないのになぜ?

教科体育・部活動は競技スポーツの底辺と考えられている。スポーツは競技スポーツしかないのが、日本型スポーツの特徴。

競技団体の責務と学校体育の責務を区別すべき。

学校の部活はダウンサイズしないといけない。部活動から競技活動を切り離さざるを得ない。基本的には、教育活動と自主活動を担い、できるところだけが競技活動もする。

部活の改革は日本のスポーツ環境の改革。学校の先生だけでやれることではない。

長期的な視野に立った改革について学校からも発信した方がよい。

立場をこえた対話

このセッションには、52名の方が参加し、有山先生からの問いかけを元に対話をしました。学校の教員、部活動のコーチ、地域のスポーツクラブの指導者など様々な立場の方が、それぞれの立場から「部活動、スポーツクラブのこれから」を構想しました。

今日がスタート

個人的には、「部活動の改革は、日本のスポーツ環境の改革。学校の先生だけでやれることではない。」という言葉がとても印象的でした。言われてみればごもっとも。「部活動の問題」と聞くと「学校の問題」と思い込んでしまっていた自分に気付くことができました。
じゃあこれから、誰と誰がどう連携して、どんな環境を作っていけばよいのか。この問題について、様々な立場を越えて話し合っていかなければ解は見えてこない。今日の対話がそのスタートにも見えました。

〇参加者の感想(アンケートより)

  • おおむね理解できる内容でした。全くその通りだと思いました。スポーツ自体の楽しさを伝えるというのもその通りだと思います。ただ、スポーツと試合を切り離すということに難しさを感じます。
  • 部活動指導に対価が払われるべきとはっきり述べていただきたかったです。教員のボランティア精神はもう限界なんです。女性指導者が続かないのも問題です。部活の指導者って男性が多い。なぜでしょう。そこにも焦点を当ててほしかったです。
  • スポーツの環境を変える必要があるという点同意します。
  • 自分たちが辿ってきた経験とは異なることを日々自覚しています。子どもたちの育ってきた環境や親子関係、保護者の価値観も変化し、教育の現場がどこに向かえば良いのか、その中で部活動の位置づけも迷走していることを感じます。
  • なぜ、働き方改革とセットになってしまったのか?教師側に選択権があっても良いと思う部分もあります。「楽しく時には苦しく、でも、自分が意思決定して、主体的な参加姿勢と満足度も高く、目標達成できる」そんな環境を提供できると良いな〜と、思います。どこまでを生徒に任せ、どこからは教師が介入するの線引きも難しさを感じる場面もあります。変化していくものなのだという認識を持つことが大切だなと考えさせられました。有山先生が「コロナ」中の部活動についての捉えについて、私も同様のことを感じています。
  • 「今までは、とか、普通ならはもう当たり前ではないんだ」と、思うことが大切だと感じています。
  • 部活動は福祉的機能も有していることなど考慮し、残す方向で思考して考えていました。そのため、外部指導員の活用は考えていました。しかし、それは緊急の対応で長期的に見たらよくないままかもしれない。というお話を聞いて、まさにその通りだと思い、衝撃的でした。
  • 明治から150年続く、同一学年、同一集団での唯一解を求めてきた学校のスタイルが、スポーツ(運動部活動)まで限界に達していることを再確認できました。

(松下祐樹)

セッション紹介

セッション名
部活動はどこへ行く
セッション内容
ブラックの文字が躍る昨今の運動部と大きな問題の指摘されない文化部の違い。部活動をやりたくて仕方ない先生と、辛くてしょうがない先生の二極化。競技にかける生徒とスポーツを楽しみたい生徒の溝。そして、感動物語を煽りながら一方で批判するメディアの矛盾した論調。混迷する運動部活動の何が問題で、何をどう整理すべきなのか。ともに考えてみましょう。
講師
有山篤利(ありやま・あつとし)氏。追手門学院大学社会学部教授。京都府立高校保健体育科教諭、京都府教育庁指導部保健体育課指導主事、聖泉大学教授、兵庫教育大学大学院教授を経て2020年より現職。日本武道学会評議員。兵庫体育・スポーツ科学学会監事。専門は体育科教育学、体育社会学、武道学。研究領域は教科体育(武道領域)・武道論・運動部活動。