未来の体育共創サミット2021で、浦井重信氏(柔道)、杉岡英明氏(サッカー)、酒井泰葉氏(水泳)に登壇いただき、「「スポーツ」は発達障害に対して何ができるか?」というテーマでセッションが行われました。以下、参加者(酒井重義)によるレポートです。
講義の概要
柔道・浦井重信氏
- 「漢字の書き取りができない」児童がいたとする。アセスメントをすると、物の形を視覚的に認識すること(見る)が苦手であったり、鉛筆を指で使う器用さが足りなかったりする。そのときに大事になるのは、「見る」や手指を使う土台となるバランス能力、姿勢保持・調整能力である。バランスを保つことができてはじめて「見る」ことや手を使うことができる。したがって、身体を使った遊びや運動、スポーツが大事になる。「漢字の書き取りができない」児童について、理解力や記憶力が足りない、やる気が足りないという問題として捉えるのではなく、身体の問題として捉えることが大切である。
- 柔道は、バランスの崩し合いであり、バランス能力・姿勢の保持・調整能力に有効である。さらに、支援者は柔道を通じて生徒と組み合うことができるので、容易に生徒の身体能力をアセスメントすることができる。
- 道場は居場所であり、存在を承認してくれる場所である点が重要である。「ここにいていいよ」という承認を受けていると子供は変わっていく。マズローの欲求5段階があるが、周りから承認されて、自分の居場所を得ると、子供は何か役に立つことをしたい、という欲求を持つようになる。
サッカー・杉岡英明氏
- サッカーで発達障害のある子供たちが大きく成長したことをきっかけにプログラム開発に取り組んだ。「サッカーで障がいを個性に」という理念で活動し、「ほめる」「認める」「成功体験」を通じて「自己肯定感」を育むことを大切にしており、療育プログラム「さっかぁりょういく」を開発した。放課後等デイサービス、サッカー教室、サッカーチーム、指導者を育成する認定講座、サッカー大会などを運営している。
- 「さっかぁりょういく」の効果について保護者が動画で語る:引きこもって「何もしたくない」ゲームばかりしていた娘が、「さっかぁりょういく」を通じて、自分でやりたいと言ってやりたいことやるようになった。なにより娘の表情が明るくなった。保護者も子供との向かい方が変わった。
- 発達に凸凹のある子供と長く関わってきたが、彼ら彼女らは支援の対象ではなく、大人に学びをくれる存在である。発達に凸凹のある子供たちの成長をみて、親や大人が変わり、学校が変わり、日本や社会が変わっていくと思うようになった。
水泳・酒井泰葉氏
- 身体・知的・発達・精神障がい・難病など様々な理由で困難な方に対して特性に合わせた個別水泳指導をしてきた。水泳の指導のほか、アーティスティックスイミングの指導、障害者水泳指導員洋英研究などを行っている。。
- ダウン症の生徒と酒井さまが一緒にアーティスティックスイミングをして動画を見る。生徒が楽しそうである。
- A)勉強ができるけど運動ができない子ども、と、B)勉強ができないけど運動ができる子ども、どちらかが自己肯定感が高いかというと、Bである。運動の支援は子どもの自己肯定感を高めるうえで大事。水泳の特徴として、全身を動かす、ルールが分かりやすい、生涯スポーツという点がある。水泳を通じて、子どもたちが将来住み慣れた地域で生活する力をつけることができる。
参加者との対話
3名の講師を中心として三つのグループに分かれて、それぞれの講師の取り組みについて質疑応答や、参加者がご自身の取り組みをお話しされたり、事業を継続していくうえでのポイントなど、様々な点から対話が行われました。
参加者の感想(アンケートから)
- 酒井先生のお話が面白く、ダウン症の方とのシンクロ画像に感動しました。
- お話されている先生方が、生き生きと、楽しそうにお話をされている姿が、本当に印象的で、パワーをいただきました。こんな先生方が広がれば、子どもたちは幸せだし、子どもが笑顔になれば、保護者も幸せになるし、周りの人たちが幸せになり、世界平和につながるなぁ~。と改めて感じました。
所感
柔道、水泳、サッカーのそれぞれの領域で、発達障害に関する指導者向けの研修プログラムを開発しているスポーツ指導者が集いましたが、おそらくこのような機会はこれまでなかったのではないかと思います。スポーツそのものの効果とスポーツ種目ごとの特性のほか、どのようにスポーツを活用したらいいのか、スポーツにどのような可能性があるのかを学ばせていただきました。
セッション終了後も希望者で対話は続きましたが、大人が工夫をして、それぞれの子供が自分のやりたいスポーツをできるような環境を作っていくことが大事である、という意見が出され、参加者の賛同を集めていたことが印象的でした。
(酒井重義)
セッションの概要
セッション名
「スポーツ」は発達障害に対して何ができるか?
セッションの内容
最近の様々な研究は運動が子供の発達に効果的であることを示しています。しかし、地域のスポーツ少年団や運動教室、学校の部活などそれぞれのスポーツの現場で、発達に凸凹のある子供たちはスポーツを楽しんでいるでしょうか。 インクルーシブなスポーツ環境をつくっていくためには、それぞれのスポーツ種目ごとの取り組みが必要不可欠だと思います。 そこで、それぞれのスポーツで、発達に凸凹のある子供達の指導に関わっている指導者をお招きして、スポーツの効果や可能性、種目ごとの特徴などをお話いただき、スポーツのこれからを参加者とともに話し合います。
講師
浦井重信氏
一般社団法人児童基礎体力育成協会代表理事。プロスポーツトレーナー協会公認メディカルトレーナー。柔道整復師。整体師。大阪府堺市にて、文武両道の放課後等デイサービス「みらいキッズ塾」を運営し、発達障害のある子供に対して柔道を中心とした運動プログラムと学習支援を行っている。少年柔道クラブの指導者。著書に「発達が気になる子が輝く柔道&スポーツの指導法」(共著)。
酒井泰葉氏
一般社団法人日本障がい者スイミング協会代表 東京都出身。幼少期に競泳、アーティスティックスイミングを始める。大学時代から水泳介助のボランティア活動を始め、卒業後、障がい者向け個別支援水泳教室 「アクアマルシェ」を運営、2020年、水泳を通じたインクルーシブ社会の形成を目指して一般社団法人日本障がい者スイミング協会を設立する。著書に「発達が気になる子への水泳の教え方: スモールステップでみるみる泳げる! 」(合同出版)など。
杉岡 英明氏
日本発達支援サッカー協会代表理事
歯科医師。医療法人M. コラソン理事長
子どもたちがサッカーを通して成功体験を積み、社会参加への支えとなる自己肯定感や生きる力を獲得してほしいとの思いから、日本発達支援サッカー協会を設立、独自のサッカー療育プログラム「さっかぁりょういく®︎」を開発し、発達障害のある子供向けのサッカー教室を運営するとともに、サッカー指導者等に向けた研修プログラムを提供している。