未来の体育共創サミット2021で、積田綾子氏に登壇いただき、「医師に聞く!発達障害を運動・ストレス・食事から診る理由」というテーマでセッションが開催されてました。以下、参加者(酒井)によるレポートです。
講義の概要
- 人は、何百万年も続いた狩猟採集時代など、身体を動かして生活してきたが、この200年で環境が大きく変わった。身体を動かさなくなった。
- 環境が変わることで生物の進化や淘汰が起きてきた。これまでも生物が大量絶滅する変化が起きているが、いま6回目の大量絶滅が起きている。ただしこれは人間が引き起こしている初めてのケースである。
- 人は環境に応じて発達していくので、環境次第で定型発達にも非定型発達にもなりうる(エピジェネティック)。赤ちゃんは手足をバタバタさせ、いろんなものを触り、動くことで発達していく。外遊びが大事だが、外遊びができる環境は減少している。
- 症例として、表情が乏しく、爪を噛むため手が荒れていたADHDの子どもが感情を大切にした運動を12回行ったところ、爪を噛むのをやめてきれいになり、笑顔を見せるようになり大きく成長した。運動は感覚の過敏なども改善する(運動の効果は、ジョン・Jレイティ「脳を鍛えるには運動しかない」NHK出版を参照)
- 環境として音の豊かさも大事である。耳では聞こえないが皮膚が聞く音(ハイパーソニックサウンド)が免疫など身体の発達によく、都会は乏しく、自然豊かなところは音も豊かである(音については、TEDの「大自然の音を聞け」(バーニークラウス)参照)。
- 発達障害と言われる症状は、内外の様々の環境のストレスに晒されていることから生じるという視点が大事である。発達障害は複合疾患として見る必要がある。感覚過敏、不安、腸内環境(便秘や下痢など)、睡眠、肥満、てんかんなど、様々な身体のストレス、問題を抱えていることが多い。自殺率も高い。表面的なこと、症状を見るばかりではなく、全体として捉える必要がある。その根っこになる睡眠、運動、栄養、人間関係に目を向ける必要がある(詳細は書籍”Autism and the Stress Effect”Theresa Hamlin(2015-11-21)を参照)
- 米国のThe Center For Discoveryは、このような視点から造られたところで、医療、教育、福祉、経済が一体化している、完全オーガニックな食べ物を提供している施設である。農作業をしたりしながら1日の60~70%は身体を動かして暮らす。人らしく暮らし、印象的なところは、みんなが思いっきり笑うことだった
- この時代に子どもたちに伝えるべきことは何か。ここで話したように、体育や運動で育むことができるものは一般に思われているより大きい。体育や運動が豊かにすることを考える大人が増えるといい。
対話
- これからのどんな体育がいいのか?外で遊ぶことの大切さを教えることができるのも体育ではないか。
- エビデンスに基づいた運動が大切だが、エビデンスをとることが難しい。どのようにエビデンスをとったらいいのか。
- どういう運動がいいのか。運動が苦手・嫌いの子については楽しいことが大事。ストレスはシナプス形成を阻害する傾向があるので、ストレスにならない運動、つまり楽しいものを。
- どの時間帯に運動するのかがいいのか。朝に運動で脳をいい状態にすることが大事。あとは苦手な授業や作業をする前など。
- これからは自然×テクノロジーがキーになるのではないか。
などなど。
参加者の感想(アンケートから)
- 日常生活から肉体活動が失われつつある今、発達障害の子供たちへの身体的アプローチは健常者の子供にも有効だと思いました。大変興味深い内容でした。
- 障がいのあり無しに関わらず、人間の基礎である「睡眠」「食」「運動」を見つめることが大切であるということに改めて考えさせられました。アメリカのTCFDも非常に興味深く勉強になりました。
- 専門的なエビデンスも交えながらとてもわかりやすく話していただきました。
内容に説得力があり、また医療からの情報が大変参考になりました - 教育を科学的、医療的な視点で分析、見ていくことの大切さに強く共感しました。ストレス、音環境、自然…キーワードがたくさんでした。参考図書を参加者の方からも教えたいだきました。脳を鍛えるには運動しかない、これから楽しみです。
感想
発達障害がテーマのセッションでしたが、講師のお話は、発達障害を切り口として、人がこの世界の環境で発達していくためには何が必要か、という点について、運動や身体から発達を捉える視点を教えてくださり、体育やスポーツが社会においてどのような価値があるのか、学ばせていただきました。
(酒井重義)
セッション紹介
セッション名
医師に聞く!発達障害を運動・ストレス・食事から診る理由
セッション内容
医師である積田綾子氏から発達障害を「身体とこころ」から捉える視点をお話いただきます。 小児科専門医として発達障害に関わってきたご経験、そして、一般社団法人日本運動療育協会の運動療育の取り組みや、広い意味での運動やリズム、環境、ストレス、食事などに注目して高い成果を上げている米国の療育施設”The Center For Discovery”の取り組みなどについてお話をいただきながら、発達障害のある子供たちへの関わり方について話し合います。また、医療と特別支援教育が密に連携している米国の事例をもとに、日本での教育と医療の連携についても考えてみます。 The Center For Discoveryの取り組みについては書籍 “Autism and the Stress Effect”Theresa Hamlin(2015-11-21) を参照ください。
講師
積田綾子氏
小児科専門医。リハビリ科医。順天堂浦安病院、島田療育センターはちおうじなどの勤務を経て、現在は初台リハビリテーション病院に勤務。一般社団法人日本運動療育協会の理事も務める。