未来の体育共創サミット2021に、藤原亮治氏(筑波大学附属坂戸高等学校 保健体育科主任教諭)が登壇くださり、セッション「高校保体の明日を考えよう。 -これから求められる保体人とは?-」が行われました。以下、講師の藤原亮治氏によるレポートです。
1.セッションの概要
本セッションは、これまでの教員生活を回顧し、自戒とチャレンジを参加者の皆さんと共有する中で、役割が変容しつつある「学校教員」において「保健体育」およびそれを担当する「人材」はどのようなものが求められていくのか。様々な立場から意見交流してもらう流れで行った。
【プログラム】
①セッションの説明
②担当者の自戒と実践の共有
③グループ対話
④全員で共有
2.自戒と実践の共有および対話
・私は「教師なのか?教員(教諭)なのか?」
私たちは普段自分を語る語句として「体育教師」「保体教員」と表現する場合があるが、そもそも私は教員なのか?教師なのか?
(問い1)みなさんにとって「師」といえる存在はどのような人であったか。
(グループ対話後にチャット共有)
誰もが師となりえる存在(その時々の状況によって誰もが師と呼べる存在となりえる)
「教育の場」において、教員の中から「教師」を選択するのは児童・生徒。教員として目指すものではあるかもしれないが、自らを語るではない。私たちは「教師」となりえる姿を生徒に見せているだろうか?
・教育実習生から見る高校保体教員の姿
トップアスリートである学生を教育実習として受け入れる中で、学生自身が競争の側面に縛られてスポーツキャリアを形成してきたことがうかがえる場面に多く遭遇している。その縛りを課している人のなかで多くの割合を占めている「教員」の存在。
「勝つ」という価値の一側面を、「絶対視」する環境は、教員になってからの教育観や教材観にも色濃く反映され、「体育嫌い」「運動部活離れ」の要因になっていないだろうか。
・スポーツは「人生を豊かにするツール」
「スポーツが人格をつくる」部活依存、指導者依存型生徒をつくる常套句。
スポーツは豊かな人格を形成するための「ツールの一つ」でしかない。
・スポーツの本質的な価値に気づくために私たち大人はマインドセットを再構築する必要がある。
(問い2)高校の体育で「なにがあれば」or「なにがなければ」より多くの人たちがスポーツと豊かにかかわれたと思うのか?
(共有から)
・評価が大きな足かせになっているという話が常に出てくる。個人に寄り添おうとしても、生徒本人が評価に縛られることで、多面的な価値と向き合うことができない
【藤原】
評価にかんして学力の3観点を生徒とどのように共有しているだろうか。
本校の事例を共有した。体育の場合「わかる=できる」でない。「身体知=言語知」ではない。「知っていることを元にどのように工夫したのか」「学習によってどのような変容がみられたのか」(思考・表現)「学習に対して、主体的に取り組んだのか、自主的だったのか、積極的だったのか」(関心・態度)について、生徒と常に評価方法とその意図を共有することで全体が安心して学ぶ環境の整備に努めている。特に技能については、学習時間の中で達成できることには限界があることから比重に重きを置かないようにしている。
保健および体育の学習指導要領における「第一の目標」を達成していく授業ってどのようなものなのか今一度しっかり考えていくだけでも変わってくると思う。
・スポーツを通じて自己と社会をつなげていく学びの環境の重要性
学校行事と地域イベントの共同開催(マラソン大会)や特別支援学校とのスポーツ共創など、社会参画におけるスポーツを通じた多面的な経験が生徒のキャリア形成に良い影響を与えていることを紹介。
・「保健」「体育」の授業は今の時代ますます重要になる。
保健・体育も教育課程の一部。
有機的に学習を「学び化(自分事化)」する機会としてシラバスを作成することが重要。
情報社会のなかでヘルスリテラシーを育むトレーニング。
科目「探究」につなげる自己調整学習の重要機会。
(問い3)体育・保健が選択とならないために、保体人としてどのようなう姿が必要で、周りに理解を得ていけばいいだろうか。
→ 共有から
〇下手だけどナイスショットをもとめて楽しめる、それを受容できる関係を育てる保健体育の実現をめざす。
〇健康教育の場は絶対必要だと思う。ドクターの立場からはとてもその重要性を認識している。だからこそ、コロニー化せず巻き込んで授業をブラッシュアップできる環境を作る
〇校種・科目種の分断を起こさないための関係作り。スポーツの楽しさを深く味わっている人が多い体育の先生が、学外でスポーツのwellbeingを発信できる言葉を持つこと
4.参加者アンケート
- 学校種の枠を終えて「保体人」という大きな味方をもらえた。
- 保健体育の可能性と価値を強く感じました。とても面白かったです。
- もう動き出さなくてはと思わされました。特に社会とつながる保健・体育をどんどん考えていきたいと思います。
- 新カリキュラムに向けて課題が山積みの状況で、高校体育の未来を前向きに考えることができる機会に参加できて、とても実りのある時間でした。教員自身が探究を続けることから目を背けてはいけないと強く感じました。
- 『これじゃダメだよ!体育授業』の出井雄二先生の文献を思い出す共感することの多い時間になりました。また、生涯体育・スポーツを目指す体育授業で地域に乗っかるという発想は私にはありませんでした。私もどこかで実践してみたいと思います。
- 高校保体教員を数多く輩出している教員養成系大学の責任でもあると思います。関係者としてどんなアクションができるか考え中です。
5.感想
午前中の有山先生の内容が素晴らしく、内容を急遽全とっかえした今回のセッション(汗)瞬間的にでる貧相な言葉を紡ぎながらなんとか努めました。まずは参加してくださった皆さんの温かいご協力に感謝いたします。
セッションにおける高校教員の全体数は20%前後であらためて課題観を共有することの難しさを痛感しました。一方でそれ以外の幅広い職種の方と時間を共有できたことの意義を改めて感じています。中にはこれから体育教員を目指す高校生も参加しており、後日談として体育教員という選択について「ここまで深く考えることはなかった」というお話を聞くことができました。これから「教員」の卵となり「産声」をあげ、周囲の環境から「保体教師観」のスタンダードを構築していく若者のためにも「現状」を批判的・創造的に捉えていく場を今後ますます大切に作っていく必要性を改めて感じることができ、逆に参加いただいたみなさんからエネルギーをいただいたように思います。
全国にはアプローチは違えど、「保健体育」を未来に生きる「生徒」に合わせ、本質的に捉えなおしながら、トライ&エラーを続けていらっしゃる先生方、それを応援してくれる方々がきっと多くいらっしゃいます。
そうした先生方とネットワークを広げながら(現在思案中)、真正な「保健体育」の実現にむけてチャレンジしていこうと思います。保健体育って本当はめっちゃ面白いよ!
(藤原亮治)
セッション紹介
セッション名
高校保体の明日を考えよう。 -これから求められる保体人とは?-
セッション内容
必履修の保健や体育科教育に私たちは応えてきたのか?これからの部活は?課題山積だからこそ面白い保体人のこれからについて、オープンにフランクに語り合いたいと思います。
講師
藤原亮治氏
筑波大学附属坂戸高等学校 保健体育科 主任教諭。20、30代は部活指導にも熱心に打ち込んだが、日本の部活指導の見直しが必要だと考え始め、現在は、IBやシステム思考といった学習メソッドから「保健」「体育」における「共創」をキーワードにした学習の個別最適化とシティズンシップを推進する学びの「在りよう」を研究している。「未来の体育を構想するプロジェクト」メンバー。著書(分筆)「真正な共生体育をつくる」「社会課題解決総合学習ノート」