「AI時代の体育を構想しよう」というテーマで小宮山利恵子氏に、これからの社会や世界がどう変化していくか、それに伴って教育や体育、スポーツがどう変化していくかを中心にお話いただきました。以下、セッション参加者(松下)によるセッションのレポートです。
講義の概要
オンライン教育の拡大、教育改革で変わる学校教育
1.個別習熟別学習の普及
2.評価軸が変わる
3.学校や先生の役割が変わる(再定義が必要になる)
先生が必要なくなることはない。ただし、役割は変わる
4.学校内外で地続きの学びができる
1人1台。家でもできる。データが取れるからその子に合った正確な学びができる。
5.教科学習の授業時間数が減り、その分探求学習の機会が増える
積み上げ型の教科(算数、数学、英語)は圧縮できるのではないか。
求められる変化として、教師の役割が「コーチ=伴走する人」へ
全国一律の授業 → 個別学力に合わせた学習内容
それに伴って必要なスキルは観察力
1.世界の動き
未来の体育を考える時、世界の動きを俯瞰してみないと間違った方向に進んでしまう可能性がある。
2045年にシンギュラリティ(人間の脳をコンピュータの脳が超えてしまう)がくる。もっと早いもっと遅いなど諸説あるが、いずれにしても最先端テクノロジーとの共存は避けて通れない
テクノロジーのトレンドは10年ごとに変わる。
2000年代はデジタルの時代 2010年代は繋がる時代 2020年代はデータの時代
AI、5Gともに欠かせない技術になってきている。4Kや3Dも合わせると、子どもたちがピラミッドの中を探検しながら学ぶということも起きる。未来の話ではない。
アフターデジタルの世界観
これまではリアルとデジタルは重なっていた。リアルにくっついたデジタル。
これからはデジタルがリアルを覆っていく。リアルはデジタルの一部になる。日常全てがデジタルで行われていて、その間、間にリアルが挟まってくるという状況。
世界がテクノロジーによって変わってきている。それによって必要な人材も変わってきている。働く環境も変わってきている。プロジェクト型の仕事が多くなってくる。どこか企業に属してというよりフリーランスになって自分の能力をアピールしてプロジェクトに参画していくというのが主流になっていく。
2.これからの学び、体育
これからの社会は、成長社会から成熟社会へ。情報処理能力から情報編集能力へ。何か画一的に1つのことを正しく速くやるよりも、正解のないことに対してどのように対応していくかという力が必要となってくる。21世紀型スキル(論理力、創造力、回復力、協働力)それに伴って評価軸が変わってきている。
教育×テクノロジーに注力すればするほど「五感を使ったアナログ/リアルな学び」の重要性を感じている。
「想像力を育むには五感を使った学びでないと育めない。テクノロジーはツールでしかない。」
スポーツとAI
・トレーニングの分野(どうやったらパフォーマンスを向上できるか)
・見る分野(観客にどうやって関心をもってもらうか、エンゲージメントを高めるか)
・ゲームのサポート分野(試合をどうやったら精密にうまくスコアリングできるか。)
新しい技術を使うことで、潜在的な関心を引き出したり、関心を継続させたりできるのではないか
テクノロジー、AIを活用することによる体育の変化
1.より効率的にパフォーマンスを改善できる
2.モチベーションを上げることができる
3.スポーツへの関心が高まる
テクノロジーを使うだけで関心が高まる。親和性が高いのではないか。
4.教育機会の格差を改善できる
5.海外の子どもたちと繋がる機会が増える
学校の中、学年の中、学級の中だけだったのが、海外の子どもたちとも活動できる
6.早く理解して、戦略を修正することができる
AIやテクノロジーが教育に入ってきたら、先生の役割は何になるのか。
これまでの優秀な先生の定義は「教えるのがうまい」教えることの半分がテクノロジーにとってかわられるとしたら、先生の役割は観察力が必要な伴走者の役割の比重が大きくなるのではないか。体育も例外ではない。
Student Agency
人生をより豊かに生きていくために、自分でどうやって自発的に、責任をもって、この社会を形作る一員として動けるかという能力。OECDでは36の要素に分けている。Student Agencyの要素をふんだんに使える教科が体育。ますます可能性がある教科。人生にとって必要な教科になっていくのではないか。
3.自分の価値を高める学び
大人も学ぶ必要がある。日本の社会人は1日平均6分しか学習していない。
学びの5段階格差。どこで躓いているか。どこで止まっているのか。
自分の価値(信用)を高めるための5つのステップ
1.自分を棚卸しする
何が好きなのか、何が得意なのか、自分の人生はどのようなものだったか、自分の資質は何か
2.人材における自分のポジションを確認する
起承転結モデル 価値を創造するにはバラエティに富んだ人材が必要
3.オンラインで学ぶ
4.足で稼ぐ
弱い繋がり(ちょっと繋がってみた人)自分が知らなかった情報が入ってくる
5.発信する
発信すると情報が集まってくる
自分を知ってもらわないと話にならない
発信することで自分がどの経済圏で需要があるかわかってくる。
質疑応答
〇知育はPCに任せて体育の先生は見守るという風にすれば、体育の先生だけで良いのではないでしょうか。
今いる先生は全員必要。足りないくらい。「これやりなさい」と言われて一人でできる子どもは5%。それぞれに足りないことをサポートする伴走者が必要。一人で管理できる子どもたちは少ない。伴走するだけでなく、子どもたちの潜在的な興味関心をすくい上げていくのも先生の役割になると思う。
〇身体を持たないAIが身体を動かして情報処理している人間の脳を越えていくことはあるのか。
数字や過去の記録に関することに加え、高次の決裁(経営判断など)でもAIに取って代わられるのではないか。データの蓄積量が違うから当たり前と言えば当たり前。
〇プロジェクトを動かす力を育てる。その中での教員はどのようなアドバイスをしたら良いのか。
ヒントを与える
妨げない
いつでも継続できる環境を作る(片付けない。常にワークインプロセスの状態)
口をださず、選択肢を提示し、選ばせる(こうしなさいは言わない)
〇スタディサプリは目標がある。その場合の指導は?
受験という出口は決まっているので、そこは割り切っている。コーチングサービスでは、指導(どう解いたら良いか、習慣化について伴走する等)も行っている。体育は受験というより、よりよく生きるためにどうしたら良いかというところで重要。
参加者の感想(アンケートより)
なかなか教員同士で研究研修していると触れられない情報に触れる事ができ、とても勉強になりました!!また、スタサプというインプット媒体を提供している方が、誰よりも学び、誰よりも未来を見ていることに感動し、希望を抱きました!!心が躍りました!!
特に先生の役割については共感できることが多かったです。体育に限らず観察者としての先生って大切な役割だなと思います。
テクノロジーはすすむが、五感を使う運動の大事さを伝えてくれたのがよかった。
(松下祐樹)
セッション紹介
セッション名
AI時代の体育を構想しよう
セッション内容
AIやIoTといった技術革新がめまぐるしいこれからの時代を生きる子どもたちにとって、「体育」とはどのような意味を持つようになるのでしょうか?そのことを考えるためにはまず、これからの教育がどのようになっていくか、もうすでにどのような変化が起こっているのかを知るところから初めてみませんか。教育とテクノロジー(AI)分野における第一人者である小宮山利恵子氏から、A I時代の教育についてお話をお聞きし、体育に求められる変化を一緒に考えましょう。
講師
小宮山利恵子氏 スタディサプリ教育AI研究所所長
スタディサプリ教育AI研究所所長。東京学芸大学大学院准教授。東京工業大学、ANA、超党派国会議員連盟「教育におけるICT利活用促進をめざす議員連盟」などのアドバイザーを兼務。経団連イノベーション委員会EdTech戦略検討会座長。全国の学校等でAI時代の社会、学びや情報リテラシー等について多数講演を行っている。近著に『教育AIが変える21世紀の学び』(共訳、北大路書房、2020年)、『レア力(りょく)で生きる』(KADOKAWA、2019年)等。