サッカーとはどんなスポーツなのか -ゲームにつながる技術・戦術-酒本勝太氏-レポート

未来の体育共創サミット2021のセッション「サッカーとはどんなスポーツなのか -ゲームにつながる技術・戦術-」について、以下、登壇くださった講師の酒本勝太氏からのレポートです。

1. セッションの概要

日時:2021/1/18(月)19:00-20:30
内容:サッカーを非線形の現象として捉え、全体から練習へ展開する全体論的な見方をレクチャーをし、ゲームと練習が繋がるスポーツの取り組み、体育の取り組みついて参加者とディスカッションをしました。レクチャー内容をさらに詳しく知りたい方はnoteに連続記事として載せていますのでぜひ参考にしてください。
https://note.com/ineft/n/nf5f78734a08c

以下はサミットでお話した内容の概要です。

◆クローズドスキルスポーツとオープンスキルスポーツ

今回はスペインをはじめとしたヨーロッパでのサッカーの考え方を中心にお話していきたいと思います。

運動・スポーツには多くの種類がありますが、スポーツは大きく「クローズドスキルスポーツ」と「オープンスキルスポーツ」の2つに分けられます。

クローズドスキルスポーツとは器械体操や陸上競技のように、環境が安定しており、次に起こることを予測することが可能なスポーツのことを指します。

オープンスキルスポーツとは、サッカーやラグビーなど、仲間や対戦相手などで状況が絶えず変化し、次に起こることを予測するのが難しいという特徴があるスポーツです。

◆非線形現象としてのサッカー

この「状況が絶えず変化し、次に起こることを予測するのが難しい」ことを、「複雑系」「非線形現象」と言います。近年、サッカーでは「複雑系・非線形」という言葉がちらほら用いられるようになってきました。

非線形とは言葉の通り、「非」線形のことです。「線形」とは、「1+1=2」のような関係性のことを指します。例えば、100円のジュースを1本買ったら100円ですが、5本買ったら500円になります。「線形」とはこのような関係のことを指します。

このように、一般的に「線形」においては、「重ね合わせ」の原理が成り立ちます。近代科学の中心的方法ではこのような、部分に分解して、要素を分解して理解することに基礎がおかれています。このような「線形」の考え方は「要素還元論」ともいいます。

 一方で「非線形」は、単純に表すことができないものを表現するときに用いられます。このような現象は世の中に溢れています。例えば、2人が協力して共同作業をした時、私たちは1人1人ができるものを足した以上のことを予想します。また、もし2人が共同作業中に喧嘩でもしたら、1人1人ができるものを足した以下のものになることもあります。このように「単純に表すことができないもの」のことを「非線形」といいます。

◆全体論・ホーリズムとして理解する

 以上説明してきたように、線形的なものごとは部分に分解することができますが、非線形ではそれぞれが相互作用を生じているため、分解して理解することが難しいという特徴があります。多くの要素から成り、さらに要素間が動的な相互作用をし、多種多様な部分系が生成されるようなものごとは分解して理解することは難しいのです。また、分解をしてしまうと、本質から離れてしまうという特徴もあります。

「ある人の顔を構成する目、口、鼻などの各部分についてどれほど詳しい情報をもっていても、その人固有の「顔つき」はわかりません。顔つきはこれらの要素の布置から生まれる新しい性質であり、要素自体についての知識には含まれないサムシングだからです。」

蔵本, 非線形科学より

 「顔つき」を見たいのに、鼻、口、目などを分解して見てしまうと、確かにそれらの部分に関しては詳しく理解することはできるが、本来の「顔つき」が見えなくなってしまいますよね。つまり、相互作用する多数の部分系の集団が全体系をしているため、分解をしてしまうと本質から離れてしまうわけです。

◆技術・戦術は切り離すことができない

では、今まで説明してきたものを頭に入れてサッカーについて考えていきましょう。

サッカーというスポーツは11人と11人の22人もの選手たちが、それぞれ異なる特徴や考え方をもって動き合うスポーツです。これだけでも、多くの要素から成り立っているとスポーツといえます。

さらに、要素間(選手間)は動的な相互作用によって多種多様な部分系が生成されています。例えば、2選手が協力して1人の相手を突破しようとする際、仲間のサポート良ければパスがしっかりと出せますが、相手の後ろにサポートをしてしまうと2人いるのに1人の力しか出すことができません。

つまり、サッカーでは1人1人ができるものを足した以上のことができることもできますが、1人1人ができるものを足した以下のものになることもありえます。

サッカーに限らずスポーツのパフォーマンスには身体的要素、技術的要素、精神的要素の「心・技・体」が関わっていることは周知の事実です。これらの要素すべてを向上させることでサッカーのパフォーマンスが向上することは間違いありません。

では、これらの要素の一つ一つを「分解して」「足し合わせる」とサッカーのパフォーマンスは向上するのでしょうか?

「足を速くする」「ドリブルを上手くする」「パスを正確にする」「体力を上げる」・・・etc

これらの要素を足し合わせたらサッカーのパフォーマンスが向上するかは甚だ疑問です。

◆どのようにトレーニングしていくべきなのか

このように全体論としてサッカーを捉え、そこから練習メニューを考えていくと、これまで「基礎練習」としてなされていた、パス練習、コーンドリブル練習も、今一度考え直す必要があると思います。

練習を積み重ねて、積み重ねて、ゲームに辿り着くのではなく、そのパスや戦術は常に「ゲームの課題を解決するためのツールである」というゲームとの関係性を考え、ゲームにおけるどの局面においてそのツールは使えるのかどうかが同時に理解される必要があります。

ある局面においては、練習ではタブーと思われるトゥキックが最高のパフォーマンスとなる場合もありますし、足元がとても上手い選手でも、状況判断を一瞬間違えただけで、失点につながります。

指導者は「基礎だから基礎練習をする」のではなく、その技術は試合のどの局面で用いられるのかという、これまでとは逆の思考でトレーニングを組み立てていかなくてはいけないと思います。

皆さんのチーム、授業はいかがでしょうか?

2. 参加者とのディスカッション

◆複雑系について深める

複雑系は単に秩序がないというものというわけではないくて、実はシンプルな規則を持っていることを発見して解き明かすことができる。例えば鳥の群れや魚の群れは難しいように見えるが、一羽、一匹それぞれが、離れ過ぎない、近過ぎない、障害物が来たら避けるという3つのパターンを全員が理解していることで、「群れ」として動いていると言われている。

サッカーも同じようにごちゃごちゃしているけれど、ある程度の法則が存在している。この局面はこうなっていると理解し、また肝になっている課題を理解してすることが大切。

「うまいな」という評価になるものは、基礎練習が綺麗に出ているという場面ではなく、局面において最適解、新しい答えを出した瞬間だと思う。

◆学校における評価

今この局面で何をすべきか理解できて動いているのかを評価できるようになると良いと思う。

例えば、シュートチャンスがある時にトラップをしてシュートができなかったよりも、良いタイミングで、トゥキックでもアウトサイドキックでも、とにかくシュート局面だと理解している動きができているかどうかが評価できれば、サッカーってこういうスポーツだよねっていう理解に基づいて授業を展開して、評価ができるのではないかと思っている。

3. 感想

この度はこのような貴重な機会を与えていただき感謝しております。普段あまり話す機会がない方達とお話ができ、学びの多い充実した時間でした。

今回お話しした内容が日本のスポーツ・体育の発展の一助となれば幸いです。今後ともよろしくお願い申し上げます。

文責・酒本勝太

セッション紹介

セッション名
サッカーとはどんなスポーツなのか -ゲームにつながる技術・戦術-
セッション内容
サッカーを練習するというと、コーンドリブル、パス&コントロール、シュート練習、ポゼッションなど、名前をあげたらきりがないほど練習方法はたくさんあります。しかし、これらの練習をくっつけると、それはサッカーになるのでしょうか?
練習では上手だけれど、ゲームが下手。そんなことは他の種目にもあるかもしれません。固有のスポーツ種目の理解は、プロ選手の練習にも学校体育の授業にも広がります。サッカー指導者はもちろん、学校の体育でゴール型の授業をする体育の先生と「そもそもサッカーって何?」から初めてみたいと思います。
講師
酒本勝太氏
ジェフユナイテッド市原・千葉アカデミーU 13コーチ
日本体育大学 教育・コーチング学系博士課程終了。博士(体育科学)。
ジェフユナイテッド千葉のユースチームから、アルゼンチンにサッカー留学。大学卒業後、アジア人で初めてスペイン・バルセロナ大学大学院INEFC RETAN修士課程を修了。ジェフユナイテッド市原・千葉エリートプログラムコーチ、ヴィッセル神戸アカデミーディレクター通訳などを経て現職。

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