ボツワナで柔道を教えながら気づいた柔道の力(村上瑠希也氏)

2022年1月23日、未来の体育共創サミット2022にて、「ボツワナで柔道を教えながら気づいた柔道の力」というテーマでセッションが実施されました。以下、講師によるセッションのレポートです。

1. セッション概要

(1)なぜ海外に興味を持ったのか】

私は5歳で柔道を始め、最初は親に連れて行かれるがまま道場に通っていました。そんな中、2003年大阪で開催された柔道世界選手権大会で井上康生(元全日本柔道男子監督)さんのオール一本勝ちでの金メダルをテレビで見て、『柔道かっこいい!あんなふうになってみたい!』と感動し、それから柔道が大好きになり、今まで20年間柔道と共に成長してきました。

そんな私がなぜ海外での柔道指導に興味を持ったかというと、『前田光世』という柔道家の生き様に影響を受けたからです。彼は今から100年以上前に海外での柔道普及のために命を燃やした柔道家です。私は彼と同じ青森県津軽地方の出身だったこともあり、彼のことをもっと詳しく知りたいと思い、大学の卒業論文では青森で育った頃の前田光世について研究し、論文にまとめました。彼の研究を進めていくうちにどんどん彼の生き様への憧れが強くなっていき、私も海を渡って柔道普及のために活動したいと思い海外協力隊への参加を決意しました。

(2)実際に海外協力隊になっての活動内容

海外協力隊の試験に合格し2018年7月にアフリカ南部のボツワナに派遣されました。派遣後の活動としては、主に2020東京オリンピックに向けたナショナルチームの強化や、ボツワナ国内における柔道の普及・発展に向け活動を行いました。

ナショナルチームでは世界選手権を始め国際柔道連盟主催の国際大会等にも監督やコーチとして帯同し、選手と一緒にボツワナから東京オリンピックという夢に向かって必死に頑張ってきました。

普及の面では首都近辺の小中学校を巡回し柔道教室を行い、教室や校庭、中庭に簡易マットを敷いて礼法や受身、柔道衣を着用し柔道技を体験するなど、柔道に触れる機会をつくり柔道人口の増加を目指しました。

活動の最終目標である東京オリンピック出場という目標は残念ながら叶えることはできませんでしたが、ボツワナで選手たちと目標に向かって活動できたことは私自身を成長させ、とても貴重な経験となりました。
 

(3)帰国後に立ち上げたプロジェクトについて】

こうした約2年半の活動を終えて帰国し、今後もボツワナ柔道の更なる普及・発展やボツワナの社会問題でもある孤児の子ども達にも柔道を通した教育支援に微力ながら尽力したいと思いプロジェクトを立ち上げました。

本プロジェクトの目的は2つあります。

1つ目が、国内で社会問題となっているA I D S孤児や児童虐待、人身売買、育児放棄などによって孤児院に保護される子ども達の居場所を作ってあげたい。

2つ目は、国内には1つしか柔道場がないため、違う地域でも柔道場を開き、まずは国内で切磋琢磨し、仲間を増やしながら国内の柔道を盛り上げ、ボツワナの柔道人口増加を目指したいということ。

私自身、2年間の協力隊の活動期間に孤児院を訪問し、子ども達と触れ合う機会がありました。その時に、その子ども達は本来は安心して過ごすことができる環境を奪われてしまい、自分の居場所が分からなくなり、常に周りや大人の視線を気にし、他者との間に壁を作っているように感じました。

そうした子ども達に柔道を通して、自分の居場所や生き甲斐を見つけてもらいたい、そのためにこのプロジェクトを通じて柔道場を作りたいと思いました。

最終目標は柔道場を作ることがですが、その前にボツワナで認知度の足りていない”柔道”を広めていく必要があります。そこで現地のパートナーと協力をして、2021年11月20日にボツワナ北部で柔道イベントを開催してきました。開催場所は、ボツワナ北部のマウンという地域で、ここに柔道場を建設、または既存の施設でのクラブを作る予定です。

実際に私もボツワナに渡航し、イベントに参加してきました。そこで会って一緒に柔道をした子供達の顔はキラキラしていて新しいことに初めて触れるワクワクした顔が今でもすぐ思い出します。その顔を見ることができただけで、このプロジェクトを立ち上げて良かった、日本から渡航してきてよかった、このプロジェクトを継続させなければならないと思いました。

(4)これからのアフリカとスポーツの未来について】

スポーツで人の輪は無限に広げていくことができると思っています。私は最初言語に自信かなく、しっかりコミュニケーションを取れるのかすごく心配でした。しかし実際にはそのスポーツ特有の言語がありました。私の場合は柔道とうい共通言語がありました。他のスポーツも同じだと思います。

まだ海外協力隊への参加前、経験の浅かった私はアフリカに住む人は遥か遠くの人で全く別の人種だと思っていました。しかし全然そんなことはありませんでした。一緒に柔道をしてみると一瞬で仲間になりました。生活は貧しい人達もいるかもしれませんが柔道をしている間はみんな楽しそうで幸せそうでした。スポーツにはそんな不思議なパワーがあるのです。

そういった私の経験からアフリカでスポーツに触れることができる場をどんどん増やしていき、スポーツで夢や希望をもっと持っていける環境を作ってアフリカをもっともっと盛り上げていければと思っています。

2. 参加者の声(事後アンケートより)

  • 実際に青年海外協力隊としての活動内容などを詳細に知ることができ,非常に有意義なセッションでした。ありがとうございました。

3. セッションを終えて

今年、海外協力隊としてボツワナに行くことが決まっている方が参加して頂き、ボツワナのことについていろいろ話をすることが出来て良かったです。また彼もスポーツ隊員との事で今後も一緒に協力しながらプロジェクトの方も出来ればと思いました(村上瑠希也)

4. セッション紹介

タイトル
ボツワナで柔道を教えながら感じたスポーツの力

セッションの概要
大学時代は海外、国際協力、英語など全く興味がなかった私がなぜ卒業後にアフリカ・ボツワナに渡ったのか?
そこで出会った温かい現地の仲間。柔道コーチとして、その仲間と必死で目指した東京オリンピックとういう夢舞台。1人でも多くの子供達に柔道の素晴らしさを知ってもらいたいと奮闘した巡回での柔道教室。 
そんな中での新型コロナウイルスによる緊急帰国、そして日本で任期満了。このやり切れない思い、ずっと心の中にあるモヤモヤ。このまま後悔はしたくない。そこで自ら立ち上げたボツワナでのスポーツプロジェクト。
何が私を動かし、なぜ帰国後もボツワナでの活動を続けるのか。その思いを語る。そして参加者と共に、国際貢献としてのスポーツ可能性について語り合いたい。

講師
村上瑠希也(元ボツワナ柔道代表コーチ)