超人スポーツと教育について語り合おうー参加者レポート

〇セッション概要
「技術を用いて身体を拡張する、誰もが楽しめるスポーツを創る」活動を展開する一般社団法人超人スポーツ協会の安藤良一氏を招き、超人スポーツと教育の関わりについて当法人理事の玉置哲也氏と対談を繰り広げた。
安藤氏は「世界中で多様性に対する取り組みが進む中、超人スポーツ協会では3原則として「技術とともに進化する人機一体のスポーツ」「すべての人が競技者として楽しめるスポーツ」「すべての人が観戦者として楽しめるスポーツ」を掲げ新たなスポーツのあり方に挑んでいる。現在安藤氏が掲げている問題意識の例として障害の捉え方を挙げ「障害は身体のあり方にすぎない。拡張機会として捉える。誰もが一緒に楽しむなら、人間か環境のいずれかという考え方ではなく、まずは差があることを認識するところからスタートしないといけない
」と力説した。

教育現場に立つ玉置氏から「超人スポーツの考え方を教育にはどう活かす?」と問われ、ここでも安藤氏は「障害のある方に可哀想というのは、現実世界の特定環境下に勝手に当てはめて評価しているに過ぎない。ここは発想を変えて、適材適所という考え方を教育から取り入れていきたい」と力説する。特に学校教育について安藤氏は、「学校教育はサンドボックスの位置づけ。生徒が主体的に学ぶために、代替的な空間の提供することができる。体を育む体育の教育の役割が増えていく」と期待を寄せる。玉置氏からも「今まで当たり前に良かったことを問い直すといっても、考え直すことも難しいし強制されるのも違う。お互いに実践できるフィールドを、体育の場に儲けられる可能性がある」と安藤氏の期待に共感を寄せた。

玉置氏からは、当法人でも時折話題に上がる「みんな一斉に同じことをやらされるのが体育では嫌という人が多い」というテーマを投げかけられると、安藤氏は「楽しくないことをやらされるのはどうなのか。大事なのはその時どうかではなくてその後どうか。保健体育の文脈で言えば、みんなと一緒に競える機会といえるが、例えば身体の一部を代替的に付加する(あるいは機能させない)経験をテクノロジーで仮想的に提供できれば、また理解できるものが変わってくる」と、新しい体育の可能性を展開。頻繁に教育現場であがる「相手の気持ちを考える」ことについても、「結局は自分の視点で考えることになる。単に気持ちという解釈の話ではなく、身体拡張のテクノロジーを用いて仮想的な経験の幅を拡げることで見える世界も広がる」と安藤氏は語る。

今後の展望として安藤氏は、「アフターコロナの世界の特徴は、デジタルとフィジカルが融合する世界」を掲げ、仮想的なアバターが実物に対しフィードバックを与える世界がより進展する」と主張する。また昨今話題に上がるメタヴァースに対し、「かつて絵や落書きで想像していたものを、仮想世界の中で実装することができる」とし、テクノロジーと身体がより密接に関わりあう世界への期待感を示した。

〇セッションを終えて
超人スポーツ協会の掲げる身体拡張の領域は、体育教育の新たな可能性を拡げる手段として今後ますます注目を浴びると予想される。技能・体力の向上のためにテクノロジーを活用するにとどまらず、セッションにおいても言及された障害に対する捉え方を枠組みそのものから変える新しい思考体験を提供できることは、教育を受ける子どもたちのみならず周囲の大人を含めた社会全体に与える影響も大きい。教育現場のリソースは限られたものであるが、超人スポーツ協会の試みが授業内に実装される機会が少しずつ増えていくことを願ってやまない。

(レポート作成:鈴江智彦)

〇セッション紹介

タイトル:「超人スポーツと教育」について語り合おう
超人スポーツ協会は、技術を用いて我々の身体を拡張し、誰もが楽しめるスポーツを提案します。
義手義足をはじめとした補綴器具の進化や、情報処理技術の発展に伴い、技術を用いて身体能力を拡張することで、これまでの身体的多様性の意味合いが更新されていく未来が間近に迫ってきました。
すでにスポーツ業界を中心に幾つかの兆候が見られています。
STEM(STEAM)教育もまた、身体の拡張に伴いそのあり方を変容させることが出来るのではないでしょうか(STEAMS)。
我々の世界は物理法則によって制約を受けています。
この意味で、すでに体育は身体を育むプロセスの中で放物線運動や慣性運動を身体的に学ぶ場であったとも考えることができます。
この先、多様性や情報処理技術、物理や化学という項目など、体育「で」学ぶことも可能になる世界が訪れるのではないでしょうか。
ここでは、[体育の授業]から[体育で学ぶ授業]へのパラダイムシフトの可能性を皆様と考えていきたいと思います。

1/17(月)19:00-20:00
カテゴリー≪スポーツ≫
安藤良一氏(超人スポーツ協会ディレクター)