これからの教科体育を構想するために-有山篤利氏 追手門学院大学教授-参加者レポート

未来の体育共創サミット2021において、「これからの教科体育を構想するために」というテーマで、有山篤利氏によるセッションが行われました。以下、参加者(松下)によるレポートです。

〇講義の概要:教科体育の根本を考える

  •  教科体育は、ねらいや計画なしでも活動が成立可能で、活動はあるけど中身がない場合もある。→授業には「How to」の前に「What」や「Why」が必要。
  • 教科体育の不要論は私たちが思っている以上に厳しく言われている。
  • 社会は成熟し、目指すモデルがない時代になっている。そこで求められる力は「納得解を出す力(情報編集力)」
  • 社会変革(IT革命やBT革命)によって、身体教育としての比重が拡大している。
  • 「デジタルを使ったからOK」ではなく、「デジタルを使ったことでアナログの世界が広がった」になっていかないといけない。
  • 学習目標の設定するときも、現代の社会や将来で何の役に立つのかという視点をもつ。

など、教科体育を考える上での根本の部分についてお話していただきました。

〇参加者との対話:考えさせられるたくさんの問いかけ

このセッションで最も印象的だったのは、有山先生からの数多くの問いかけです。有山先生は、お話を進める中で、たくさん問いかけをしてくださりました。

  • 体育は教科となるような学問なのか。
  • 「楽しさ」は学習内容なのか。
  • 中学も高校も同じことをやっていないか。
  • 技を教えるだけの授業は豊かなスポーツライフに繋がる学習なのか。
  • 体育は学校で学ぶべき教科なのか。
  • スポーツと体育の区別はついているのか。
  • 社会の変革に対して、教科体育はどう応えるのか。
  • 教科体育=スポーツでよいのか。
  • 今の時代、どんな体育をしないといけないのか。
  • 他の教科、他の種目では育めないことなのか。
  • ダンスの授業では何を教えたいのか。 などなど

考えたことなかったなぁとか、ドキッとさせられたとか、簡単には答えが出ないなとか・・・たくさんの気付きを与えていただきました。

66名の方にご参加いただき、これからの教科体育について対話しました。手法ではなく根本の部分に焦点を当ててじっくり考える時間はとても有意義で、これからも考え続けていかなければいけないと強く感じた時間でした。

〇参加者の感想(アンケートより)

  • 「活動はあるが学びはない」という言葉が刺さりました。トレーニングメニューを伝える人になってしまわないように気を付けます
  • 体育の現状などが知れた。僕は高校生なので先生は何を考えているのかなどを考えたことはなかったがそれが知れてとても面白かったです。
  • 体育不要論が最近特に言われている。そんな中で、教科体育の必要性をより考えないとならないなあと感じた。
  • 時間がない・・・言い訳にせず、子どもたちの明るい未来のために体育の必要性。体育をやることで将来につながるように日々学び続けたいと思った。
  • 現代の社会のあり方を知っていてこそ、学びの意義を考えることができる、ということに気づきました。今までその領域と結びつけて考えることがなかったので、これから一層より深い学びをしていこうと思います。
  • 教師の主体的に学習に取り組む姿勢が問われる時代になったなと感じました。教師自身「なぜ」教えるのか「何を」教えたいのかをもつ必要があることを今回の有山先生の話を体育という入り口から教えていただくことができました。
  • 現在、来年度からの中学学習指導要領の観点別評価について教科内で話し合いをしています。どのように評価するのか、教員同士のすり合わせに焦点がいきがちになっていたところ、教材づくり、特に「教材観が大切」という言葉をいただき、原点に戻らされた気がします。
  • 教育としての体育という論点は、教員系の資格を持たない自分にとって新鮮でした。
  • 自分が普段から思っていたことが、有山先生の話を聞いて、より整理できました
  • ブレイクアウトで現職の先生方の「楽しさは学習内容になりうるのか?」という問いかけが印象的でした。何を学習内容とするのか、教師がもつ理念と、法と、目の前の子どもと、相互作用しながら対話しながら三者ともに発展できればよいと思いました。
  • 私の考え方と共感する部分ばかりで、後押ししてもらった気分になりました。

ハルさんが、noteにこのセッションをまとめてくださっています。こちらもぜひご覧ください。

(松下祐樹)

セッション紹介

セッション名
これからの教科体育を構想するために
セッション内容
体育の先生は楽でいいですね…。とある授業研究会で他教科の先生から浴びせられた一言です。教科体育の目標は、豊かなスポーツライフを享受できる人材を育成することにありますが、現在の体育授業は本当にこの目標に応えるものになっているでしょうか。運動やスポーツをめぐる環境が大きく変わりつつある今、これらを教材とする体育も大きく変わらねばなりません。体育という教科の何が変わるべきなのかともに考えましょう。
講師
有山篤利(ありやま・あつとし)氏。追手門学院大学社会学部教授。京都府立高校保健体育科教諭、京都府教育庁指導部保健体育課指導主事、聖泉大学教授、兵庫教育大学大学院教授を経て2020年より現職。日本武道学会評議員。兵庫体育・スポーツ科学学会監事。専門は体育科教育学、体育社会学、武道学。研究領域は教科体育(武道領域)・武道論・運動部活動