未来の体育共創サミット2021のセッション「対話で遊ぶ -J.Y.Parkと体育-」について、以下、登壇くださった講師の玉置哲也氏からレポートです。
1. セッションの概要
本セッションは、酒本、安本、玉置の「未来の体育を構想するプロジェクト」の理事3名が音楽プロデューサーのJ.Y.ParkさんがNizi Projectなどでオーディションを受けている人たちに関わる姿を見て、それぞれが考えたことを雑談的に話をした後に、それをきっかけに参加者の皆さんにグループ対話をしてもらうという流れで行った。
【プログラム】
①セッションの説明
②J.Y.Park好きの理事放談(25分×2回)
③グループ対話(20分×2回)
④全員での対話
2. 理事放談の概要
【玉置】
一人一人が「違う」から素晴らしいという話をしていることがとても良いと思った。J.Y.Parkは、目の前の人の「今」をしっかり捉えて、そこから自分がどう関わっていけばよいかを考えているような気がして、そこに共感した。
【酒本】
視聴者として、ダンスが上手だなと見ていた人に、「あなたらしくない」と伝えていて、「そういうところを見ているのか」と思った。「他者にうけようとしてやっている」のを見抜く力がすごいなと思った。「わたし」を大事にしていることと、技能がつくということのギャップみたいなのを教師が求めすぎると生むような気がした。
【安本】
彼は、エンターテイメントとして、彼女たちを売り出すという大きな目的があるので、教育と同列で語るのは雑な気もするけど、プロデュースをする力というのは教師にも求められている気がしている。人のいいところ、得意なところ、苦手なところを踏まえてプロデュースするようなクラス運営をするというところは参考にできると思う。
どんな人でもありのままをリスペクトしていることが素敵だと思う。ただほめているわけではない。リスペクトしているのを言語化して伝えていることが、結果的にその人を輝かせるし、能動的に輝こうとする力を引き出しているように見える。これは、子育て、教育、人材育成の観点から学ぶべき態度だと思っている。
【玉置】
自分は小学校教員として子どもとかかわる中で、どうしても教師が「できるようにさせたい」ことを出発点に考えてしまっている自分がいたなと思わされた。
フィードバックをしている姿を見て、リスペクトはもちろんなんだけど、豊かな専門性に裏打ちされた内容だなとも思う。自分がしっかり学んでいて、その豊かな専門性の中から今何を伝えるべきかを考えているんだなと思った。
あと、安本さんの話にもつながるけど、J.Y.Parkを教育の現場にそのまま持ち込むのは危険だと思う。Nizi Projectに参加している人たちは、「アイドルになりたい」という強烈な目的意識をもっている。学校の子どもたちも「やってみたい」みたいな気持ちを掘り起こすことを大切にしたい。
【酒本】
ほめ方が上手みたいなhow toで見るのは危ういなと思っている。テレビとかでもJ.Y.Parkのほめ方が特集されたりしていたけど、それは違うと思う。相手をきちんと見ているということが根本にある。
【安本】
J.Y.Parkだけでなく、how toは気を付けないといけない。育児本とかもそうだけど、一人一人が違うのに、なぜみんなに当てはまることがあるのかみたいなことを思う。
ただ、学校は学習指導要領もあるし、「こうなってほしい」みたいなことに通常よりバイアスがかかりがちな場だと思う。その上で、ほめるとなると、教師の思惑通りやった子をほめるみたいになりがちだと思う。「ほめる」ということが目的になると、判断基準も自分のエゴになってしまうかもしれない。教育の現場ではそういうことが起きがちだと思うからこそ、気を付けないといけない。
【玉置】
ある姿をほめるにしても、その背景にはストーリーがあると思う。J.Y.Parkはチーム審査の中にも個別のプロセスに合わせて、一人一人を評価していた。相対的に見たらうまいかもしれない人も、「あなたはまだ力を出し切れていない」みたいなことも伝えていた。
【安本】
ほめるにしてもしかるにしても、なぜそうしたのかということを必ず伝えられるようにしなくてはいけない。気分でほめたりしかったりすることはあってはならない。でも、「昨日はよかったのに、今日はよくない」みたいなことないですか?私もよく息子に言われるんだけど(笑)
【酒本】
J.Y.Park自身が、アート(芸術)が何なのかということをはっきりもっているのがすごいなと思っている。「アートというものは、人が見えないものを見えるようにするものだ」という言葉に感銘を受けた。オーディションで、とてもうまく表現できた子に「あなたは何を思ってそう歌ったんですか?」と聞く場面がある。そこに何かを感じて歌っているということを見極めている。その人のもっているよさというのが、技術とパーソナリティにひっついて出てくると思う。だから、技術が高まるにつれて、「あの人はこういう人なんだね」ということがより分かってくるし、そこをきちんと評価されているのがすごい。そして、それを一人一人の文脈として一人一人に伝わっていると思う。
【玉置】
評価される人も基準が分かっているということのがあるかもしれない。
【安本】
その基準を子どもに伝えるというのは本当に難しい。でも、伝えられないと自分が受けた評価に納得できないだろうし、テストの点数で判断するみたいになっちゃう。そうではなくて、一人の人間として、あなたはこういうところが素晴らしい。その素晴らしさがこういう取組を通して、さらに考えを深めることにつながったみたいな自分の強みを伸ばすみたいなことは意外に難しいなと思う。ちゃんと伝えて、それが公平に行われることが学校の中では必要になってくるし、難しいなと思う。
※25分経ったので、ここからグループ対話へ移動
3. 全体の場に報告されたグループ対話の内容や感想の概要
・あなたらしさとか自分らしさって何なんだろう?それはどうやって見ていけばいいんだろう?
・絶対評価って、本当にそれでいいのかな?
・しなきゃいけないことに忙殺されて、子どもたちのことを大事にできていないんじゃないかという反省の念をもちました
・教育学部の学生さんの話で、学校に教育実習に行ったときに、手をピンと挙げた子どもがほめられて、周りの子どもも同じようにしていて軍隊のように見えた。ほめるというのは、本当に大事な時と、相手の承認欲求を利用してコントロールに使っている時もあるんじゃないかとその学生さんが分析してくれた。でも、J.Y.Parkは別の観点からもほめているんじゃないかと探っていて面白かったです。
・自分自身は、J.Y.Parkを知らないんだけど、ほめ方や芸術性について考えられた。
・自己評価を高めるための他者評価じゃないかと考えた。2つのグループセッションの中で、目的って大事だとなり、ほめる目的は自己評価力を伸ばすみたいなところもあるんじゃないかなと思う。
・ほめるときに、ほめられた人の心に響くというのが大切なのではないか。その相手がチャレンジしていることを的確に捉えて、それをほめるとよいみたいな話をしている時に、同じグループの人に「いつもチャレンジしてないといけないの?」と言われてハッとした。
・他の人に授業を見てもらったときに、「話を聞いてくれてありがとう」「今大きい声であいさつしてくれてサンキュー」といつもありがとうと言っていると言われた。私は、ほめるということがありがとうに変わっているんだなと思った。
・学校現場の中では、ほめるや叱る、助言するみたいなことを意図が入りすぎている気がしている。真摯にフィードバックするということとどうつながるのかということも感じている。
・自分は教員ではなく、エンターテイナーに近いんですけど、僕から見たら、彼は苦労して韓国の音楽業界をつくってきた人なんですよね。その頑張って苦労してきた人に先生がすごく興味をもっていることに興味をもっている。なぜ、先生たちが興味をもっているかというと、今までは達成目標があって教育が出来上がってきたと思うんだけど、今の時代はもう一つ「楽しくなきゃいけない」ということが求められている時代になっている。役に立つとはではなく。その瞬間瞬間に「いいね」「イケてるね」みたいなことが思えている仁晟かどうかということが求められたときに、みんなはエンターテイメントを参考にするんだなと見えています。エンターテイメントにはそういう知見がたくさんあります。あの笑顔とか接し方とか、そういうことを参考にするといいんじゃないかなと思います。ゲームクリエイターとして興味をもったのは、Nizi Projectのペンダントを報酬として渡していき身体につけることによって、視聴者に評価をわかりやすくするとか、自分も自覚するとかいうのはゲームクリエイターの知見が活かされていると思います。こういうことを社会の中でつくっていったのがJ.Y.Parkだと思うので、そこをすごく尊敬しています。当然、彼の音楽も90年代から大好きです。
4. 参加者アンケート
- 現役教員の方から体育と評価の関連が知れて良かったです。
- 対話が楽しかったです。
- とても面白かったです。「誉める」「褒める」というよりは、「認める」が自分にとっては大切にしたいものだなと思います!
- グループワークの時間が充実した時間になりました。
5. 感想
このセッションは、J.Y.Parkをきっかけに、自分が他の人とかかわるということにあたって、どのような在り方でいたいかということを問い直す場であったと思う。次のことが印象に残っている。
- まずは、相手の「今」をしっかりと見ること。
- 文脈を踏まえた上で見ること。
- 他の人の評価をする前に、自分が学び、自分の中での評価軸をしっかりともつこと。
- なぜ、そのようなフィードバックをしたのかということまで説明できるようにすること。
このようなことを積み重ねていくことで、評価をされる人にとっても自己評価と他者評価の差が小さくなっていくのではないだろうか。もし差があったとしてもその違いを知り、自分のリフレクションに活かしたりしていくようなマインドが育まれていくのではないかと考えた。
「J.Y.Parkと体育」というセッションに50名以上の参加者が集まるとは驚きだった。当初の予想は理事3名を入れて、8名くらいかなと思っていた。これは、エンターテイメントにこれからの時代をつくるヒントがあふれているということを皆さんが直感的に感じている結果なのだろうかと思った。
理事放談に登壇してくださった酒本さん、安本さん、動画編集をしてくださった鈴江さん、ご参加してくださった皆さん、本当にありがとうございました。
(玉置哲也)
セッション紹介
セッション名
対話で遊ぶ -J.Y.Parkと体育-
セッション内容
今話題のNiziUをプロデュースをしているJ.Y.Parkさんをご存じですか?彼の発言、関わりに学ぶところは多々あると思います。ぜひ、J.Y.Parkさんから私たちはどう在りたいのか対話を通して、問い直しましょう。
講師
玉置哲也氏
横浜市公立小学校教員
日々様々な方との対話を通して「当たり前」を問い直すことを楽しんでいます。