〇セッション概要
近年提唱されているSTEAM教育(Science(科学)、 Technology(技術)、 Engineering(工学)Art(芸術)、Mathematics(数学)を体育と関連させた教育プログラムを提供する株式会社STEAM SPORTS Laboratoryの山羽教文氏を迎え、体育を題材としたSTEAM教育の事例が紹介された。
山羽氏は「社会に生かせる力をスポーツで育む構図を作りたい」として、スポーツを起点にしたSTEAM Sports教育を開発する現在の事業を始めた。その根源となる教育的意義として、山羽氏は「スポーツには遊びと教育の2つの側面がある。競争があるから目標を設定しやすく、成果と成長を手に入れる。明快なフィードバックも得やすく成長が促進される。さらに遊びだからこそ楽しみたい、続けられる、没頭できるという特徴がある」と主張する。一方、言われたことをしっかりやることが求められた過去の時代背景とは異なり、「現在は膨大な情報から何が重要かを主体的に判断、自ら問いを立てていく能力が問われている」と山羽氏は考えており、「教科分断していたものを横断的にチャレンジするSTEAM教育の特徴と、スポーツにおける問題解決のプロセスには親和性がある」として、現在の事業に取り組んでいる。
実践事例として山羽氏は、経済産業省の「未来の教室」に掲載されているSTEAM Libraryのコンテンツを紹介した。こちらは学校関係者であれば無料でアクセスでき、授業で活用できるプログラム構成となっている。この中の1つ、Steamタグラグビーでは、タグラグビーを格子状のフィールドにおける陣取り合戦に見立て、条件を設定しながらコマを動かし、数学的な視点も含めて作戦をシミュレーションすることができる。このシミュレーションのプロセスを、授業におけるディスカッションや実際のタグラグビーの実践と組み合わせることで、スポーツを多角的に理解する機会を提供できる。
実際に授業の様子を観察した山羽氏は、「運動能力の高い子どもは考えずとも理解できる場合でも、比較的苦手な子供は、理屈からアプローチすることで上達した」「情意認識形成評価、ライフスキル評価、客観的な評価で変化を観察したところ、主体的に取り組む態度、問題解決するスキル、対人関係スキルについて有意な変化が見られた」「戦術的にも攻撃の継続数やトライ数が顕著に増加、スローフォワードは減っておりノックオンは増えているなど顕著な積極性が表れている」「コメントとしても、苦手な体育でも役割を持って参加できる普段参加しない子どもが積極的に参加している」などの特徴を挙げた。
他、STEAMかけっこというコンテンツでは走りのフォームを動画に収めることで、フォームを定量的に計測しながら改善すべき点を客観的に見極められる。同社の小松氏は「画面上の再生による比較のほか、定量的な視点で数値化されたデータも算出できる。前傾姿勢次の角度や歩幅など、描画することもできる」「部活向けのデータ分析・動作解析メニューもある」とコンテンツの多様さを紹介した。
山羽氏は将来的な教育構想として「生徒自らの意思で主体的に自分を高めていく」ことの重要性を掲げる。部活動における教職員の負担軽減に向けた動きも視野に、「部活動で撮影した撮ったデータをオンライン上で学生たち主体で学ぶ機会(オンライン部活スポーツラボ)を作り、外部指導員からフィードバックを得る機会をオンライン上に作ることができれば、コストを最小限にしつつトップアスリートや大学の研究機関からの知見を得るなど様々な応用が効く」と構想を語る。「自分の課題を見つけてフィールドでの実践につなげる循環を作れば、よりスポーツパフォーマンスを高めるための問題解決思考にも繋がる」と山羽氏は力説した。
〇セッションを終えて
体育を運動競技の実践機会として完結するのではなく、実践のためのアプローチにSTEAM教育の要素を加えることで、思考力や対人スキルを高める機会として応用させることができる。山羽氏の構想は、現代社会に求められる能力を高めるために重要なポイントをおさえており、体育を多面的に捉えてその機会を活用する動きが広まることは、教育効果としても子どもと体育の関わり方という点においてもポジティブな影響をもたらすだろう。
(レポート作成:鈴江智彦)
〇セッション紹介
STEAM Sports 教育とその実践 ~スポーツパフォーマンス成果を教育現場へ~
株式会社 STESM Sports Laboratory 様によるタグラグビー ✖︎ プログラミングの授業。新学習指導要領に移行して2年。経産省による「未来の教室」で実践されて見えてきたものとは?
1/22(土)10:30-12:00
カテゴリー≪授業≫
山羽教文氏 (株式会社 STEAM Sports laboratory)