「筋トレ思考・体育会系」を問い直す

登壇者:平尾剛氏(神戸親和女子大学発達教育学部ジュニアスポーツ教育学科教授)

司会:酒本絵梨子(自由学園)

○セッション概要

日時:1/22(土)16:30-18:00

内容:

東京2020が炙り出したもの

東京2020オリンピックが炙り出した問題、特に女性蔑視、暴力的な言動による指導(スポーツ根性論)、過度な上下関係、健康被害、政治との結びつき、商業主義など、スポーツ界で以前から指摘されていた問題について指摘し、トップアスリートの不見識、非社会性が露呈したことによって、「スポーツ離れ」が加速した現在、体育・スポーツは再考すべき時期が来ていることをお話しいただいた。

その再考すべき点として下記の3点が挙げられた。

  • スポーツとオリンピックの切り離し〜「観るスポーツ」と「するスポーツ」
  • 生涯スポーツ、体育、運動部活動、プロスポーツを腑分けする
  • 〈脱・筋トレ思考〉の可能性

筋トレ思考とは

「勝利、カネ、ランキング上位といった、目に見えてわかりやすい目的を掲げ、それに向けてシンプルな方法で解決を図る考え方」を〈筋トレ主義〉とし、これを乗り越えるための、「複雑に絡み合った現象を、その複雑さを損なわないように根気強く紐解いていく思考」のこと

脱・筋トレ思考

上記の「筋トレ思考」から抜け出すことが、豊かなスポーツ経験、そして「体育」で育まれるべき身体ではないか、ということがお話しされた。

—数値主義、勝利至上主義、過度な競争主義からの脱却

—合目的的、予定調和、科学的根拠への懐疑

—「しなやかなからだ/思考」を育てること

—感覚世界に没入すること

—スポーツ根性論の再考

○参加者の声(事後アンケートより)

  • 平尾先生の書籍を拝見していたので、楽しみにしていました。直接お話を伺うことができ、とても考えさせられました。「脱・筋トレ思考」の考え方を教育に繋げて考えていきたいです。
  • 次回、身体知の話をぜひ伺いたいと思います。

〇セッションを終えて

登壇者の著作『脱・筋トレ思考』2019

登壇された平尾先生のご著書『脱・筋トレ思考』はとても衝撃的でした。体育会系のノリや先輩の話は絶対とか、元々問題意識があり、考えるところはあったのだが、著書中で「筋トレ」の科学的で分かりやすいところと複雑なゲームとのズレを見事に突いて、そして、それを我々の「思考」に落とし込んでいて、これまで言語化されいなかった、「筋トレ」と同じ方向の思考が体育会系を取り巻いていることが理解できました。
また、打ち合わせで直接お話を伺わせていただき「プロアスリートは筋トレを含む科学的なトレーニングに囲まれつつも、自分の中で複雑なその種目の「遊び」を絶対に逃さなかった人だ」というお話がとても印象的でした。
合理的で科学的、つまり早くわかりやすいことは良いことだと思われているうちに、私たちの複雑でわかりにくい身体やゲームの面白さから目を逸らしていたように感じられました。
そのうちに、その複雑さやわかりにくさの中にいる人たちを、勝敗の中で「弱い」と揶揄するような「体育会的振る舞い」を作っていたのではないかと気付かされました。
元ラグビー日本代表を経験されつつ、その経験を言葉にし、冷静に、そして危機感を持ちながら、スポーツ界を見ていらっしゃる先生のひと言一言はとても重みのあるものでした。

レポート担当:酒本絵梨子

○セッションの紹介

スポーツを取り巻く現状は勝利を至上とする考え方が蔓延しています。 しかし、「勝つか負けるか」といったデジタル的な思考で、単純に理解できるほどスポーツは簡単ではありません。 競争を通じて生成されるものにこそ、スポーツの本来の意味があるのではないでしょうか? 勝利に向かった「筋トレ」の裏にある、我々の思考を、いま一度立ち止まって考えてみたいと思います。